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「い、いないのだな」
 よかった。ほっと胸をなでおろす。
「へえ。まぁ、仕事忙しいんで、そういう関係になっても多分あんまし構ってやれねェでしょうし、そんじゃ相手の女がかわいそうでしょう」
「そ……そういうものか」
「そッスよ。俺だって付き合ってるってのに放置されんのは嫌なんで」


 ――そうなのか。


 私だったら。
 膝の上できゅっと拳を握りしめた。
 私だったら、たくさん構う。構いたい。
 こいつが嫌だといってもやめてくれと懇願しても勘弁してくださいと泣いて頭を下げても、お構いなしに構って構って構い倒してやるのだ。


「あー、護廷だと職場恋愛っつーのはその点いいんじゃねえかな。特に同じ隊だったらとりあえず毎日顔合わせるわけですし」
「職場、恋愛……」
 まさに。ごくりと唾を飲みこむ。
いえ。今だ、いうのだ。ぎゅっ。
「わ――私と、貴様のよう、な」
 だめだ最後までいえなかった。がくりとうなだれそうになる。
 ──例えるならば私と貴様のように、上司と部下でそのような関係になることもあるのだろうな。
 そういいたかったのに。全然。