ネムネムには局長の役に立ちたいというプログラムがあって、というのを前提にして、じゃああれは、一角に対しての反応は何なんだろうと思う阿近さん。




 局長があのハゲのことを知ったらどうするだろうと少し怖くもなった。


 ときどき無性に彼女をめちゃくちゃにしてみたくなる。
 技術者としての研究欲ではなく、男としての性欲ですらなくて、ただ単純にきれいなものを壊したい、好き勝手に弄りたい、ばらばらにしてみたい、という子どものような欲望だ。


 残念なことに彼女は痛みを感じる。そういうふうに局長が造ったのだ。
 痛がるのを目の前にしてかわいそうだと思う人並みの感情はまだかろうじてあるから、それ以上のことはできない。

 
 おしいな、と自分に対してつぶやく。ここで突き抜けることができれば技術屋としてもう一歩先へ進めるだろうに。
 優秀な技術者ほど子どもにちかい、というのが阿近の持論だった。純粋なのだ。いい意味でも悪い意味でも。好奇心が旺盛で、自分の気持ちにのみ忠実で、そして他人の痛みを知らない。


 涅マユリがそうであるように。

 
 自分はああなれるか――と、ときおり阿近は自問自答してみる。思考はいつも煙草の紫煙のようにゆらゆらとたゆたい、結論がでたためしはなく、そもそも本気で考えを組み立てていないのだからようは暇つぶしなのだろうと思う。阿近がお気に入りの暇つぶし。


 過程で、ネムの存在は邪魔になるだろうか。それとも、必要なものだろうか。
 彼女を壊すことができたら、局長のようになれるだろうか。
 彼女を守ることができたら、局長以上になれるだろうか。
 そんなものは、ただの感傷なのか。
 造り出しては壊し、つなぎ合わせてはバラす。
 それをくりかえすだけの自分が『守る』などと。


「くだらねぇな……」

 
 苦笑して煙草を揉み消した。新しい一本に火をつけながら、こんなふうに割り切れない欲望が局長やネムにもあるだろうかと、ふと考えた。