血液の等価。


ドリフターズの3巻明日発売・しかも表紙は与一…!ということで書きかけのヘルシングダブルパロを置いておきますね。砕蜂=局長・大前田=アーカード(吸血鬼)です。


ドリフターズ 3 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 3 (ヤングキングコミックス)




(あなたが欲しい)
 真摯な瞳で、跪いて。
 今夜だけでいい、たとえ一夜限りの夢でも──かまわない。あなたを愛してしまいました、梢綾さん。
 もしくは。
(君が欲しい)
 余裕の笑みに、腰にまわされた下心まるみえの手。隠そうともしていない。
 あのような特務機関を一人で背負うのは大変だろう、特に、君のような若く美しい女性が。何、悪いことはいわない、悪いようにも決してしない、私が君の後ろ盾になろう。
(──そのかわり、わかっているね?)



 過去にあったどちらの場合にも砕蜂は、顔ではにっこり笑って、冷静に急所に蹴りをいれるような言動とうむをいわせない動作で、さっさとその場を立ち去った。
 バカらしい。
 欲しいってなんだ、欲しいって。私はモノではないぞ。欲しいといわれて簡単にくれてやるとでも思ったか、莫迦者ども。そんなの、云う側のエゴだ、エゴ。
 私のことなど、考えてもいない。
 あいつも同じだ。
なのに、なんで。
 


 ピジョン・ブラッド、というルビーなのだという。執事の東仙いわく。
 ルビーの名であると同時に逸話を持つ言葉。『寝取られた男』。鳩の血。偽の、いつわりの破瓜の証。見分けることはできなかったのだろうか、それとも。夫となる男はすべてを理解したうえで、純潔の妻をめとったとしたのだろうか。欺されたふりをして。



 しかし、あの男は許すまい。
 はっとして、なぜあいつにつながるのだ! と頭を抱えた。



 振り切るように庭を見れば傭兵部隊が訓練の最中だった。屋敷のなかまで声が聞こえてくる。
 とても隊長とは思えない優雅な白哉が訓練の指示を出している。うつくしい所作や涼しげな立ち振る舞いは、由緒正しい貴族の長子だという異例の肩書きに納得がいくものだ。 ああ、恋次がこけているな、しかも怒られてる。
 そこにはいまだ婦警の格好をした朽木ルキアもいた。
 朽木という名字が示す通りに婦警──ルキア白哉の家の養女──血の繋がらない妹であるらしい。片や世界中の戦場で報酬を貰った限りは絶対に裏切らないという雇われ傭兵、片や元・市警の下っ端──という言い方は礼を欠くか、しかし肩書きはないも同然の警察官。(職務自体は立派なものだと思うのだけど)おそらくは込み入った事情があるのだろうが、深くはたずねなかった。


 恋次に相手は処女の方がよいか? とでも訊いてみようか。
 やはりやめておこう、あたふたとされるだけだろうから。



「隊長の血は吸いませんよ」
 でも一度だけ。破瓜のそのときの血を。一滴残らず舐め、吸い尽くしたい、と。それでいい。それだけでいい。なんの証なのだろう、それは。胸が詰まる。
 ──そうだ、こいつは。
 不死なのだ。私はこいつよりも先に死ぬのだ。遺されたこの男は何を思う。この世界に。私のいない、世界に。まるで蜜月のような。とても密度の高い時間を過ごしているのかもしれない。今になってあらためて思うほど。気づかぬほどに、当たり前に。それは、なんて。なんて幸せなのだとしたらどうしてこんなに身体の震えがとまらない。どうして、これほどつらくて、苦しくて、泣きたくなる。


「……私は、一生、誰とも結婚はせぬ」


 たとえこの家が途絶えようとも。
「貴様が欲しいというならくれてやる」
 任を解かれたそのときは。
「幾つになるかわからぬぞ」
 しわくちゃの婆になっているかもしれぬのだ。
「それでもよいのか」
 いい、と。それでいいのだ、と。
「隊長は、いつでも、いつまででも、今が一番うつくしいんスよ」
 私はこの男を離すまい。
 この男も私から離れない。
 血塗られ血まみれ赤く紅く、血で繋がれた私たちは──血よりも濃い何かで結ばれているのだ。


『絆』と。
 ひとはそれを呼ぶだろうか。