深夜のテンションて怖いよね(酔うとよけいにね)。


 部下の前では酔って醜態を晒すまいと心に決めている上司と、その上司よりも先に酔っては世話ができないという理由で自重し続ける部下それぞれがそこそこに酒に強いとなるとこのふたりがいざ、一対一で酒を酌み交わした場合、持久戦になるのは自明の理でそこからさらに延長に延長を重ね私が飲んだならば貴様も飲め、俺こっちの洋酒空けたんスから隊長そっちの大吟醸それ残り片づけてくださいよなどと、多分あとから聞けば本当に下らぬ面倒臭ぇなどとふたりしてぼやくような理由をくっつけくっつけ、後付けに後付けを付けすぎてなんだかもう理由がよくわからなくなったころ、ようやく双方、相当に酒がまわっていることに気づくのが毎回なのだからいい加減に学習しろと双方思っていることも知っていて、なのになのに、なぜに今この状況だ。



「……なんつーか、ほんともう意地とか張んのやめましょうよ、俺ら」
「意地など張っておらぬ。別段、呑み比べをしているわけでもあるまい」


「隊長、それスルメじゃねえです、筆ッス。知ってました? 筆っつーのは囓っちゃだめなんスよわかってます?」
「ならば貴様は知っているか大前田、これはなんだと思う」


「……氷ッスね」
「うむ」
「溶けかけてまスね」
「そうだな。つめたい」
「じゃ、離しましょうよ!」


「ところで大前田」
「なんスか。はいほらこっちよこしてください。指も濡れてんじゃねえかよ、拭いてくださいって」


「氷を女性の乳房の先に当てると強制的に勃ってしまうらしいな」
「ああもう、だーかーらー、どこで覚えてくんスかそういうちょっと砕けた飲み会で披露する系の雑学を! 今これそういう席なんスか!? だったらもっと早くいってくださいって!」


「一昔前の現世の銀幕女優など、唇の厚さが足りぬ色気が足りぬと監督に叱られ、しぶしぶ氷で唇を腫らして撮影に臨んだそうだ。あれは屈辱であったと後に語っていたが、私は素直に尊敬した」


「はぁ。プロ根性ってやつッスかねえ。で、それがどうしたんスか」
「……」


「……隊長? あれ? たいちょー? どしたんスか? なんで黙ってそんなじっと氷見て」


「――……試してみるか」
「……へ?」


「しかし私ひとりでは心細いな」
「っていうと」
「貴様がやれ」
「はぁ!? とかいいませんよ驚きませんよ俺、絶対こうくると思ってたぜ! 何年隊長の副官やってっと思ってんスか!」


「ならば話が早いな。さっさとしろ」
「あー、どこに当てればいんスか」


「選ばせてやろう。どこがよいのだ。私の身体の部位ならどこでもよいぞ」
「えーと、隊長、念のため確認していいッスか」
「なんだ?」


「……酔ってますよね?」
「そう思うならば思えばよい」
「へえへえ、そういうことにしておきましょう。んで、俺も相当酔ってまス。認めまス。っつーか、いろいろとキてます。なんで」
「ん?」
「酔いの席の振る舞いは明日に持ち越さないっつーことで。いいスか?」
「か、構わぬ。それが酒席での作法……っなら、ば、ぁ、な……ッ、やっ……!」




無礼講なのはふたりきりのときだけ。蜂は挑発はできるけどその後が弱いへたれ誘い受ちゃんだとよいな…!