ラブってコメとけ永遠のお別れヴァージョン(希←蜂&かなめ)
もしも。もしも、大前田がいなくなったら。いや、そのようなことがあるはずがない、護廷には脱退という制度はないし、あれは警邏隊の隊長となってからはほとんど実戦に出ない。もし戦いの場に駆り出されてもあのしぶとい臆病者の生き延びるのに長けた男がそう簡単に死ぬはずがない。そうだ。私は何を考えているのだ、あいつはどこへも行かぬ。
いつだって私とコの字を描いて並べられた執務机にどっかりと座って、ふと目をやれば必ずそこにいる。ふてぶてしい態度で、腹の立つことや下らぬことをいう。刑軍の任務から帰ってくれば深夜の執務室から灯りが漏れていて、私が開ける前にがらりといきなり横開きの扉が開いて「まったく、返り血くっつけたまんまで戻ってくんのやめてくださいって。隊士に見られたらどうすんスか、ってまぁどうもしねェけど。ほら、さっさと入ってください、風呂の準備できてますんで、冷めねえうちに入ってくださいよ」
そのようなことをいいながら吊り上がった小さな目つきの悪い双眸をすがめ、うっそりと巨体をななめにし、私を執務室のなかに通すのだ。
そんな日々がずっと続くはずだ。そうだそうに違いない。
けれど。
もし。
あいつが本当にいなくなったら。
もう二度と会えなくなったら。
「……砕蜂?」
めずらしく名前を呼ばれたことにも反応できなかった。
「……あ」
泣いていることに自分が涙をこぼしているということに、数秒、遅れて気づいた。
「――ッ、あ、ぅ……あ」
とまらない。ぼろぼろと流れ出る涙が意志の力ではどうにもならない。
大丈夫だこの男には見えないのだ、だからだから。
ふと、腕が伸ばされた。まるで草木に触れるような無防備な自然さで、涙がぬぐわれる。
「さ、触るなッ!」
いうものの、私もその場から動かず手を振り払うこともしない。そうさせない静かな『どうでもよさ』が不思議と心を落ち着かせる。やさしさではきっと、ない。もっと別のものだ。
それが何かわかったとき、この盲目の男は私から離れていくような気がしてならない。どんな形なのかはわからない、なのに予感だけがあって背筋をざわつかせる。
構わず九番隊隊長は宙を仰いでぼやいた。
「雨でも降っているかな」
どこか上の空のようなとぼけた声に、知らず知らずのうちに少しだけこわばっていた肩の力が抜けた。
「……やまぬのだ」
「そういうこともあるね」
雨宿りしていこう、と東仙は私の頬を両手で包み込み、確かめるようになでさするとふと、唇に親指を差し入れた。性的なものをいっさい感じさせない、道具の具合を確かめるような、おそらく無自覚にもっとも酷い手つきで。
舐めとられても私は驚かなかった。
「雨は海の味がするね」
行ったことがあるのか、海に。びっくりするのはその箇所ではないだろう、自分で自分がおかしくて少し笑った。
「ああ、晴れた」
「……いや、もうしばらく」
雨宿りを。
書きたかったのは東仙の態度です(わかりにくい萌えポイント)