あなたが私の愛を見縊ったから!の砕蜂ヴァージョン。

 ヲタ、メタネタ注意。




 こんなことをされる覚えはない、と砕蜂は先ほどからずっと考えている。
 同時に、こんな目に遭うはめになった原因を思い出そうが忘却の彼方のままであろうがどう考えても自分は悪くない上にこの莫迦は確固たる莫迦であり明白にうつけでどうしようもなくたわけ者だというのには変わりないと確信している。
 うむ。と、ひとつうなずいた。どうせ下らぬ理由なのだ、けれどこいつがこのような実力行使に出てきたのはめずらしい。


 常日ごろは自分に蹴られ殴られ吹っ飛ばされてはさらにクナイを打ち込まれる。ちょっと刺さって血が出る(だけで副官は毎度毎度大騒ぎをする。いい加減に慣れろというのだ)。そのような日常を送っている、が、ゆえに打たれ強くなっただろう。よいことだ。しかしてそこから反撃にうつる――ということは今までになかった。


 口ではなんだかんだとうるさく騒ぎ立てるものの、副官が実際に何かすることはない。上下関係をしっかり叩き込まれているからというよりは、単純に実力の差だ。やり返そう――という素振りをほんの少しでも見せただけで何倍もの怪我を負うのは目に見えており、この男はそのあたりを熟知している。
 理に聡いが、少々腹立たしくもある。もっとも下克上などこの先一生、叶えてやるつもりは毛ほどもなかったが。


 そのような二番隊の隊首と二席の事情をかんがみるに、今現在の状態はほとんど奇跡といってもよかった。ありえないがゆえに、怒りよりも驚きが勝る。
 頭上でまとめて縛られている手首が擦れて痛い。


「いいんスか? こんな格好、誰かに見られたら恥ずかしいのは隊長ッスよ?」

部下の不遜な物言いに、ふん、と鼻を鳴らす。
「眼鏡が足りぬな」
「そのネタはもういいッス! そんなに鬼畜眼鏡好きなんスか!? 誰、攻略したんスか、なんならかけましょうか俺!」
「全コンプリートに決まっているだろう。私は眼鏡は細い黒縁かシルバーのメタルフレーム以外認めぬ。おしゃれ眼鏡? ふっ、ありえぬな。レンズを磨いて出直してくるがいい」
「なんにもうまくねえですよ、うまいこといってねえッスよ、なんスかそのどや顔は」
「大切なことを堂々といって何が悪い」


「じ、じゃあサングラスは、黒眼鏡はどうなんスか隊長!」
「あれは別ジャンルだ。なんだ、マフィアンパラレルでもやりたいのか貴様。制服ともいえる黒スーツを着用しつつも、ボタンをふたつみっつ外した悪趣味な紫のシャツの襟から金の太い首飾りがのぞき、ネクタイは白に金糸で薔薇をアレンジした刺繍が施された高価なものというチョイス、ブランドもののバックルのぎらぎら目立つベルトに蛇柄の先のとがった革靴などという成金マフィアファッションも貴様なら似合うだろう。そして大きな石のついた指輪をはめた手でキューバ産の葉巻のひとつもふかせばよいのだ」
「隊長、ひょっとして俺のこと好きなんスか? なんでそんな詳細なんスか妄想が」
「するとなればさしずめ私は、少女娼婦――と見せかけて情報を収集しベッドでの暗殺も行うヒロインというところか。ガーターに拳銃は外せぬオプションだ。パーティシーンではきちんとキャラを踏まえ、ワンスリットの華やかなチャイナ服を着用しよう、しかしひとたびパーティ会場が戦場となりしは、スリットを自ら破り、華麗な足技と脚線美を惜しげもなく披露するのだ」
「えっへん。って顔でこっち見ねえでくださいよ……ちょっとかわいいッスよ? いやまあ、そッスかーすごいッスねーかっこいいッスねー」


「なんだその棒読みな返答は。真面目に聞いておかねば後で後悔するぞ」
「いつすんスか後悔とか」
「この裏社会マフィアンパラレルを管理人が公開する気がある以上、いざというときのために自らの役割くらい把握しておけ、うつけが」
「ひょっとして今の後悔と公開をかけ……って、いやいやいや、なんでもねェです!」