部屋に恋人が忘れていったルーズリーフのノートをぱらぱらとめくる。ブルーの表紙のノートである。ななめに傾いだ、踊っているような、彼女の思考に書く手が追いつかないかに見える字体で、新社会人である彼女の研修中らしきメモがつづられている。見慣れない単語や記号がならんでいた。
相変わらず読みにくい字だと口もとがほころんだ。けれど本人は判読できているのだろう。そう信じたい。


合間に挿入されている小説のメモらしきものは、スラッシュで区切られ、英語まじりに書かれている。彼女独特の覚え書き方法である。意味のわかるものも、わからないものもある。知っている話も、知らない話もある。


途中、僕の名前が、あった。おたんじょうびおめでとお。あっという間に一年がたってしまったこと。最近のこと。モモちゃんはわたしが何者でもきっとわたしのことが好きだということ。モモちゃんがどんなふうになってもわたしはモモちゃんのことが好きだということ。それらがひらがな多めの頭の悪そうな文体で書かれていた。


ノートの端にあった、子どもみたいなプレゼントの走り書き。ミルク、ホワイト、ロゼシャンパンチョコレートと、猫のかわり?


僕が欲しいものは彼女が全部知っている。僕が欲しいものは、全部、彼女がもっている。彼女は僕にとっての、ミルク、ホワイト、ロゼシャンパンチョコレートと、猫のかわり。