希砕めも

「――痛ッ……よ、せ、大前田っ……」
 口の端から唾液がたれて顎を伝う。
 一滴、また一滴と蜜が溜っていく。舌を痺れさせるほど濃く、濃度を増せば苦みを感じる、とろとろとした甘露。

 唇を離した。どうしていいのかわからないという表情、ぎゅっと華奢な肩を縮こまらせて右手で指をかばっていた。今、その指はどんなふうに痛むのだろう。いつまで痕は残っているのだろう。消えてしまうまでこの感触を覚えていてくれるだろうか。指先を舐めた唾液はこの人の膚に染みこむか。

「あー、もう大丈夫ッスよ」
「な、何がだ」
「寸法、覚えましたから。隊長の薬指の。これでいつでもサイズぴったしな指輪作れます」
「……莫迦者」
 てっきり怒られ怒鳴られ蹴られるものとばかり思っていたのに、小さくそういっただけだった。泣きそうに顔を歪ませていた。
 そんな顔をするから。こういうことをしたくなるのだ。しなくてはいけない気分になるのだ。