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全部、奪って。
上の口も下の口もこじ開けてねじこんでそそぎこんで汚して欲しい。爪をたてて歯をたてて痛めつけてめちゃくちゃにして欲しい。決して消えない痕を残して欲しい。単純な願いはそれだけなのになぜこんなにも難しい。
肌につけた痕は時間がたてば消えてしまう、汗も唾液もあれも、洗い流せばなくなってしまう。
どうして終わってしまうのだろう。
どうして離れていくのだろう。
どうして手に入らないのだろう。
どうして全部奪ってもらえないのだろう。どうして、どうして、どうして。
なぜ、溶け合えないの。
ふたりだから溶け合えないの。ひとつになれない。距てる皮膚なんかいらない。この身体もいらない。全部、いらない。だから――だから。
やさしく愛するやり方なんて知らない。愛される方法なんてわからない。誰も教えてくれなかった。だからこうするしか、
わたしを置いていったあのひとはいまも記憶のなかで笑っていて。
「――……」
ねえ、名前をよんで。
私の名前をよんで。
こんな形で誰かを愛することがあるなんていってもきっと誰も信じてくれない。
「あんたは、死なない」
じっと見つめる瞳はどうしてこんなに澄んでいるのだろうと、
「あたしも、死ねない」
だから、こうやって生きていくしか。だから、こうして汚し合って傷つけ合っていくしか。血を流しながら、それでも抱き合うしか。
抱きしめて。どうか強く抱きしめて。わたしもあなたを抱いてあげたい。ほんとうは、ずっと。あなたをやさしく抱いてあげたかった。
「逃げてもいいよ」
わたしに付き合う義理はないでしょ?
「逃げないよ」
彼女の頸動脈がすぐそばで脈打つあたたかい膚(はだえ)の下涙で濡れた頬をよせる乾いた唇でなぞるこれはわたしのものわたしのものわたしだけのもの。
「逃げないよ」
そんなことをいわないで髪をなでる手細い指わたしを傷つけた指熱いからだわたしが傷つけた彼女のからだ流れる血がまじりあうのならお願いわたしが正気なうちに。
なんとかしなくては。溜まっていく何かが溢れてしまう前に。