あなたのことしか、いらない。


 ああそうやっていれば隊長って本当に美少女ですよね。そりゃため息も出ますって。
 そんな隊長に憧れて本気で好きになっちまってどうしようもなく愛して、地獄を見た奴はひとりやふたりじゃねえでしょうに、俺の知る限りでも。なのになんの因果で俺なんかに惚れましたか。そしてこの執着具合は少々おいたが過ぎやしませんか。
 執着する相手が欲しいだけなら他当たってもらえませんか、俺は俺でやることもあるし仕事だって忙しいし女だっているし、つうか知ってるでしょうに。通ってる遊郭の古馴染みの姐さんの名から、護廷での遊び相手まで。
 そういうの、世間一般では職権乱用っていうんですが、隊長知ってました?


「貴様が」
呆れるほど簡単に身をまかせてきたから、これが彼女の日常なのだと勝手に納得した。
ちょうどよかった、と砕蜂はいう。なんの感情もうかがえない声でいう。
「私は、貴様のことしか好きでないのだろうな」
 どこか他人事のようにつぶやいた。
「興味がねえ、の間違いでしょう」
「そうか。そうかもしれぬ」
 彼女は大前田のことが好きなわけではないのだろう。ただ執着する相手が欲しいだけだ。
 この人はいつだって誰かを愛したくてたまらなくて、けれど今の地位にいる限りは 周囲に高い囲いをつくって孤立することで自分を保ってきたこの人は今さらやり方を変えることができない。


「俺は、隊長のために何ひとつ捨てられやしませんよ」
「構わぬ」
 あっさりといった。
「私とて、貴様のために何かを捨てようとは思わぬ。だが」
「覚えておけ。貴様が私のものであるためなら、私はどのようなことでもする」
「俺は隊長のもんなんスか」
「それ以外に貴様の存在価値があるか?」
「普通に、副官っつうだけじゃだめなんスか」
「それでは足りぬ」
 大前田をまっすぐに見つめた。
「私は貴様のすべてが欲しい」



希蜂めも。零かすべての愛。と、どこかで本気にしてない副隊長(達観してるともいうかもしれない)