牧野修『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』



ああもう天才だからいいよという気分になってきます。牧野修を読むなら、SF大賞を受賞した『傀儡后』や映画バイオハザードノベライズよりもこれを強力におすすめしたい。


夢見る力と腐臭のする悪趣味な妄想がこれでもか!これでもか!というくらいつまった密度の高いSF短編集。神秘主義と密接な関係にある演歌の終焉をえがいた『演歌の黙示録(エンカ・アポカリシプス)』、全宇宙の生命体を笑わせることのできた――いまはおちぶれたお笑い芸人コンビがいどむ命を賭けた最後の舞台『或る芸人の記録』、そして、


帰宅途中のスレンダーな変態奴隷列車八両編成は下品なアクメ軋みをさせながら駅に挿入。マゾ乗客で淫らな腹を一杯にさせた全車両を駅で待つ客が視姦嬲りで弄べば、列車汁で汚した連結器くねらせてジュブブと潮吹き散らしながら、四つん這い車体を猛烈に線路に擦りつけ被虐マゾ痴悦を露にして『犯してっ、自動扉裂けるくらいに深く突き込んでぇ〜!』とアクメの限界。
(楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史 インキュバス言語62ページから引用)


天使からインキュバス言語をさずかった男の帰宅途中の描写。このあと世界を創造するよ。ずっとこんな感じ。某さんに読ませたらウケてた。


妄想を媒体とする言語人形狩りがはじまったとき、少女型言語人形(ラングドール)はどこかにあるというかれらの楽園を目指して絶望的な逃亡をはじめる――『逃げゆく物語の話』。僕はこれのラストを読むたび、泣きます。